当院では、治療のために日常生活を大きく変えるのではなく、ご自身で行う処置をしっかり続けることが、回復への近道になると考えております。
そのため、通院は多くても週に2回程度に抑えており、通院日以外は、ご自宅でのケアを行っていただきます。もちろん、スムーズに行っていただけるように、処置の内容は事前にきちんとした指導とフォローを行いますのでご安心ください。
「やけど」は、正式名称を「熱傷(ねっしょう)」と言い、日常の生活の中でもとても多い「けが」の一つです。
小さなお子様に限らず、大人の方であっても、「熱いお茶をこぼした」「高温の鍋に触れてしまった」など、毎日の生活の中で、やけどはいつ起こるか分かりません。
やけどの深さや大きさ、部位などによっては、治療に長い時間がかかる上、重い後遺症が残ることもあるため、やけどをした時には、適切な応急処置をするとともにできるだけ早く受診することをおすすめします。
やけどとは、「熱によって起こる皮膚のけが」であり、高温の液体や固体、気体などの「熱源」に一定の時間以上接することで、皮膚が損傷した状態を指します。
やけどの程度は、ごく軽いものから、命に関わる重症までさまざまで、その重症度は、熱源の「温度」と触れた「時間」によって決まります。
炎や熱湯、蒸気など、熱源が非常に高い温度であれば、短い時間触れただけでもやけどになり、接触した時間が長くなるほど症状は重くなります。その一方、44~60度くらいの比較的低い温度の熱源は、少し触ったくらいですぐにやけどにはなりませんが、長い間、接触しているとやけど(低温やけど)になることがあります。
その他、特殊なやけどとして、化学薬品や電気などで起こるやけどもあります。
やけどにより皮膚組織が損傷すると、炎症による腫れや赤み、痛みなどが現れ、「体外からの細菌の侵入を防ぐ」「体温や水分を保持する」という皮膚の働きが妨げられます。
しかし、やけど直後に傷の深さを正確に把握することは非常に困難で、軽症と思っていても、数日後に水疱(水ぶくれ)ができたり、皮膚が壊死(えし:組織が死んでしまうこと)して傷跡が残ったりする場合もあります。さらに、傷が細菌に感染すると、治りが悪くなるだけでなく、体温の低下など引き起こして命に関わるケースもあるため、症状の経過には十分な注意が必要です。
やけど(熱傷)治療の基本については以下のブログにも詳しい情報があります。
やけどには、以下のような種類があります。
高い温度の熱源に触れて起こるやけどで、最も発症頻度が高いやけどです。
熱い飲み物や揚げ油などの「液体」、高温の鍋やアイロンなどの「固体」、電気炊飯器やポットの蒸気などの「気体」に接触して起こるほか、屋外でのバーベキューや花火などで火を使っている時に、直接炎が服に引火して起こる場合もあります。
通常熱傷は、日常生活の中で起こることが多いやけどです。日頃から火の取り扱いに十分注意をすることはもちろん、小さなお子様がいらっしゃるご家庭などは、「やけどの原因になるものをお子様の手の届くところに置かない」など、ご家庭内の危険な箇所を点検し、事故を防止することが大切です。
使い捨てカイロや湯たんぽ、電気毛布、ホットカーペットなどの比較的低温(44~60度程度)の熱源で起こるやけどです。これらの暖房器具は接触してもすぐにはやけどをしませんが、布団に入れたまま眠ってしまったり、長時間、体に密着させたままにしていたりすると、やけどになります。
低温熱傷は、熱源の温度が低いので軽傷で済むと思われがちですが、接触時間が長い分、皮膚の深い部分まで損傷が及び、治療に時間がかかる場合が多いです。
酸やアルカリ、有機溶剤などの化学薬品が皮膚に触れることで起こるやけどです。
付着した薬品の量と接触した時間が長いほど皮膚のダメージも大きくなるので、皮膚に薬品が付いてしまった時は、速やかに水で洗い流すことが大切です。
化学熱傷は、特殊な環境でのみ起こるわけではなく、日常、ご家庭で使用する洗浄剤や漂白剤などが原因で起こることもあります。使用の際には、使用方法の説明をよく読み、正しく使用することが大切です。
電気が体の表面や体内を通り抜けることで起こるやけどです。
体に電流が走ると、体内には熱が発生し、体の深い部分にある組織や筋肉が損傷を受けます。
一般的なやけどとは異なり、体表面の損傷の広さだけでは重症度が分からず、小さな傷であっても、時間の経過に伴って損傷が広がるケースが多いのも特徴です。 電撃傷は、電気工事中の事故などで起きるほか、落雷や小さなお子様がご家庭内にあるコンセントで感電するケースもあります。
やけどは、皮膚の深さによって症状が異なり、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ度の3つのレベルに分類されます。
肌の一番上の部分である「表皮」のみが損傷するやけどです。
日焼けをした後のように皮膚が赤くなってむくみ、ヒリヒリとした痛みや熱感を伴いますが、通常は数日間で回復し、傷跡などの後遺症が残ることはありません。
表皮の下にある「真皮」に及ぶやけどで、水疱(水ぶくれ)ができて、痛みを伴うのが特徴です。
Ⅱ度熱傷は、さらに損傷の深さにより、「浅達性(せんたつせい)Ⅱ度」と「深達性(しんたつせい)Ⅱ度」の二段階に分けられます。Ⅱ度の中でも浅い「浅達性Ⅱ度」は、強い痛みがありますが、適切な治療を行うと、傷跡を残さずに治すことが可能です。
それに対して、より組織の深い部分に及ぶ「深達性Ⅱ度」は、治療を行っても傷跡が残る場合が多いですが、損傷が大きい分、痛みの感覚も麻痺するため、痛みは感じにくくなります。
表皮や真皮のさらに下にある「皮下組織」にまで及ぶやけどです。傷が深く、脂肪や筋肉、血管のほか、痛みを感じる神経も損傷されるため、痛みの感覚は完全に無くなります。
また、血管が損傷して血の気がなくなると、皮膚が蝋(ろう)のように白くなりますが、炎が原因のやけどでは、炭のように黒くなること(炭化)もあります。
皮膚の細胞が完全に死んでしまうと(壊死:えし)、細菌感染が起こりやすく、治療には長い時間がかかり、傷跡も残ります。
やけどは、傷の深さと大きさ(面積)によって、「軽症」「中等症」「重症」の3段階に分けられます。
一般的にやけどの面積が広いほど、重症度が高くなりますが、やけどの部位や患者さんの年齢なども考慮して総合的に判定する必要があります。
やけどの面積を確認するには、いくつかの方法があります。
成人のやけどにおいて良く用いられるのが、手のひらを全身の1%として計算する「手掌法(しゅしょうほう)」や、体のパーツを9の倍数で計算する「9の法則*1」です。小児の場合には、体のパーツを5の倍数で計算する「5の法則*2」を使用します。
*1 「9の法則」は、頭部9、片腕9、片脚18など、体の一部位を9の倍数の数字(%)で表す
*2 「5の法則」は、頭部20、片腕10、片脚15など、体の一部位を5の倍数の数字(%)で表す
重症度の判定は、「Artzの重症度分類」で以下のように基準が決められています。
「軽症」の場合、通院による治療が可能ですが、「中等症」以上は入院治療が必要になります。
さらに「重症」になると、一般の病棟ではなく、熱傷専門の医療機関での治療が必要となります。
やけどは、全く予期せずに起こるもので、痛みや焦りで気が動転してしまうかもしれません。
しかし、やけどは、けが直後の処置がとても重要で、その内容により、重症度や予後に大きな影響を及ぼすこともあります。まずは落ち着いて応急処置を行うことを心がけましょう。
水道の流水で20分以上、しっかりと患部を冷却します。
やけどで受けた熱のエネルギーは20分位かけて徐々に皮膚の深部にまで浸透します。
この間にしっかり冷やして、できるだけ熱を取り除くことができれば、やけどの進行を防ぎ、傷の痛みも和らげることができます。
また、水疱(水ぶくれ)があるときは、潰れてしまうと、そこから感染が起きる場合がありますので、なるべく潰さないように気を付けましょう。
患部の冷却を十分に行った後は、清潔な貼りつかないガーゼなどで傷を保護し、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
「やけどの応急処置方法は?水ぶくれができた時の対処法を解説」も参考にしてみてください。
時間をかけてしっかり冷却するには常温の流水が最も適しています。
早く冷やそうとして保冷剤や氷などを使用すると、冷却材と患部の皮膚がくっついて傷が悪化してしまうことがありますので注意が必要です。また、高齢者や小さなお子さんは冷えすぎにより、低体温症や凍傷になる場合もありますので、冬場などは特に気を付けましょう。
やけどをした部分の衣服を無理に脱ごうとすると、水疱が破れてしまうことがあるので、冷却時には服の上から水をかけましょう。傷が生地に張り付いてしまった場合も、無理に剥がさず、そのままの状態で医療機関を受診しましょう。
やけどの後は、しばらくして患部が腫れてくる場合があります。時計や指輪などのアクセサリーを付けていると、取れなくなって切断しなければならないこともあるため、早めに外しておきましょう。
やけどの傷は消毒薬などを使わずに、水道水できれいに洗い流しておきましょう。
自己判断で傷に軟膏などを付けてしまうと、診察時に傷の状態が分かりにくくなり、治療に支障が出ることがありますので控えましょう。 ※やけどの応急処置については以下のブログにも詳しい情報があります。
やけどの治療法は、重症度によって異なります。
皮膚の赤みやヒリヒリとした痛みは、初期にしっかり冷却を行うことで緩和できます。
炎症を抑え、痛みを緩和する効果のある「ステロイド外用薬(リンデロンVG軟膏など)」の塗布を行うことで、数日程度で症状が回復します。
Ⅱ度の傷の場合、新しい皮膚の基になる細胞が残っているため、治療には皮膚の再生力を高める効果のある「湿潤療法(モイストヒーリング)」を行います。
湿潤療法とは、傷を乾燥させないように少し湿らせた状態で保護する治療です。傷をきれいに洗って薬剤を付けた後、ワセリン(保湿剤)を塗ったガーゼで保護し、テープや包帯で固定することで、皮膚の再生力(上皮化)を促します。
Ⅱ度の治療には、おもに「bFGF スプレー(フィブラストスプレー)」という薬剤を使用します。
フィブラストスプレーは、「塩基性線維芽細胞増殖因子」と言われるもので、傷の治りを良くする効果や傷跡を改善する効果があり、やけど治療のガイドラインでも早期から使用がすすめられている薬剤です。
Ⅱ度熱傷では、基本的に手術療法は行いませんが、傷から感染が広がるとⅢ度熱傷に進行してしまうケースがあるため、より症状が重い深達性Ⅱ度の場合には、細菌感染を予防する目的で、早いうちに患部の切除(デブリードマン)を行う場合があります。
残った傷あとを治療する方法はこちら。
※湿潤療法やフィブラストスプレーについては以下のブログにも詳しい情報があります。
Ⅲ度熱傷になると、皮膚の血流が失われ、壊死の状態になります。
そのままにしていると、細菌感染を起こすリスクが高いため、患部の皮膚を切除する手術(デブリードマン)が必要になります。
デブリードマンを行った場所は、皮膚がない状態になります。患部が小さければ、周囲からの上皮化(じょうひか:皮膚が再生されること)が期待できますが、切除した範囲が広い場合は、他の部位から皮膚を持ってきて移植する手術(植皮術)が必要になります。
皮膚ダメージが少ないⅠ度のやけどは、後遺症が残りませんが、Ⅱ度以上(おもに深達性)のやけどは、治療後に以下のような後遺症が残り、見た目や機能面に大きな影響を及ぼすことがあります。
・肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん):傷跡の部分が赤く盛り上がり、軽いかゆみや痛みを伴う。
・ケロイド:傷跡の範囲を超えて赤く盛り上がり、強いかゆみや痛みを伴う。
・瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく):口やまぶた、手足の関節など、開閉や曲げ伸ばしをする部位にできた傷の場合、皮膚がひきつれて動かしにくくなる。
せっかくやけどが治っても、残念ながら傷が残ってしまい、日常生活に障害が出てしまう方もたくさんいらっしゃいます。そのため、当院では、やけどが治った後の傷跡を目立たなくする治療にも力を入れております。
傷跡の治療には、内服薬や外用薬のほか、注射、圧迫治療、レーザー、手術や放射線治療などがあります。治療には、保険が適用できるものもありますが、自費で行う治療も含まれます。
当院では、患者様の傷跡の状態に合わせ、最適な方法を選択し、治療を行っています。傷跡でお悩みの方は、ぜひ当院にご相談ください。
ケロイド・肥厚性瘢痕について以下のページでも紹介しております。
瘢痕拘縮については以下のページでも紹介しております。
当院では、治療のために日常生活を大きく変えるのではなく、ご自身で行う処置をしっかり続けることが、回復への近道になると考えております。
そのため、通院は多くても週に2回程度に抑えており、通院日以外は、ご自宅でのケアを行っていただきます。もちろん、スムーズに行っていただけるように、処置の内容は事前にきちんとした指導とフォローを行いますのでご安心ください。
やけどの治療後は、「紫外線対策」と「保湿」が大切です。
やけど後に、患部の色素沈着が起こることがありますが、通常は数か月程度で徐々に改善します。しかし、この時期に紫外線に当たってしまうと色素が定着してしまうことがあるので、毎日の紫外線対策はしっかり行ってください。
また、傷跡の部分は皮膚が乾燥している状態で、痒みも出やすくなっています。搔いてしまうと新たな傷ができてしまうので、こまめに保湿ケアを行うと同時に、傷跡が落ち着くまでは包帯やサポーターなどで傷跡を保護して強い刺激を与えないようにしましょう。
傷跡のケアについては以下のブログにも詳しい情報があります。
傷跡のケアって何が必要?
痛みが徐々に強くなっている場合、細菌感染を起こしている可能性があります。
活発に動いていると感染が進んでしまうことがありますので、まずは安静を心掛け、患部を軽く冷やしてください。そして、できるだけ早く医療機関を受診することをおすすめします。
やけどをした時には、「アロエ」や「蜂蜜」を塗ると良い、といった民間療法があります。
たしかにアロエや蜂蜜には「傷を治す作用」や「抗菌作用」「抗酸化作用」がありますが、傷の状態を確認せずに自己判断で行ってしまうと、傷口からかぶれや感染を起こすこともありますので控えるようにしましょう。
やけどの処置(民間療法)については以下のブログにも詳しい情報があります。
怪我、やけどにアロエ、味噌が効く?
やけどの治療は、一昔前と比べて本当に大きく進歩しました。当院ではやけどを「痛くないように治す」だけではなく、将来的に「傷跡を可能な限り綺麗にする」ために何ができるかを考えて治療を行なっております。なかなか治らない、できるだけ綺麗に治したいという方は、緊急でも診察を行なっておりますので、お気軽にご連絡ください。