きずときずあとのクリニックについて
私、村松英之は、形成外科医として多くの傷跡に悩む患者様と接する中で、形成外科の認知度が低いために適切な治療を受けられていない現状を目の当たりにしてきました。この課題を解決するため、2017年に日本初の傷跡専門クリニック「きずときずあとのクリニック」を東京都江東区に開業。これまでに3万人以上を診療し、昨年には銀座に分院も開設しました。
傷跡治療は専門的で難しい分野ですが、本記事では以下の点を分かりやすく解説することを目的としています。
- 傷跡とはどのようなものか
- ご自身の傷跡がどのタイプなのか
- ご自身に適した治療法は何か
- 治療の大まかな流れや方法
- 期待できる効果と注意点
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傷跡治療のひどい真実:知っておくべき5つの現実
治療を検討される方に、まず知っておいていただきたい5つの厳しい現実があります。
- 傷跡は解釈による: 傷跡を気にするかどうかは個人の主観です。他人が気にしなくても本人は深く悩んだり、逆に他人が大きな傷跡と見ても本人は全く気にしないこともあります。
- 傷跡は完全には消えない: 現代の医療で傷跡を完全にゼロにすることは不可能です。しかし、治療によって目立たなくしたり、隠しやすくしたり、全く違う傷跡に変えることはできます。
- 治療には年単位の時間がかかる: 傷跡治療は長期戦です。手術後も半年から1年はむしろ目立つ状態になり、時間をかけて落ち着いていきます。レーザー治療も同様に年単位の時間が必要です。
- 治療には高額な費用がかかる: 保険適用される治療が非常に少ないため、自費治療が中心となり費用が高額になることが多いです。しかし、20~40代の若い方であれば、その後の長い人生を考えると価値のある投資とも言えます。
- その傷跡は他人には気づかれないことが多い: ご自身が気にしている傷跡も、他人はほとんど気づいていません。人は鏡で見るように他人の顔を至近距離で見ないため、姿見くらいの距離で分からなければ、他人にも気づかれないことがほとんどです。
- 傷跡は季節や体調、生活習慣の影響を受ける: 特にケロイドは、寝不足や多忙、飲酒、妊娠、季節の変わり目などで赤みや盛り上がりが悪化することがあります。
なぜ傷跡治療を行うのか?
これらの厳しい現実があっても治療を勧める理由は、傷跡を目立たなくしたり、違う傷跡に変えたりすることで、悩みを解決し、生活の質(QOL)を向上させる価値があるからです。ケロイドもコントロール可能であり、当院では自信を持って治療を勧めています。
保険治療と自費治療の違い
傷跡治療には、保険が適用される治療と自費診療となる治療があります。
保険治療
- 適用対象: 関節が動かない、目が開けにくいなど「機能的な問題」がある場合や、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕拘縮などに限定されます。
- 治療法: ステロイド注射(ケナコルト)、テープ(エクラープラスター)、ヘパリン類似物質(ヒルドイド)、機能改善を目的とした手術など。
自費治療
- 適用対象: 見た目を良くすることが目的の治療。
- 治療法: レーザー治療、さまざまな外用薬や内服薬、ボトックスやヒアルロン酸注射、見た目を改善する手術(W形成術、戻し植皮など)。
混合診療について
- 同じ傷跡に対し、保険診療と自費診療を同時に行う「混合診療」は認められていません。
- 保険診療から自費診療への変更は可能ですが、自費診療から保険診療へ戻ることはできません。
傷跡治療における保険診療の未来
国の医療費抑制の方針から、今後、傷跡治療に対する保険適用の範囲が拡大する可能性は低いと考えられます。保険制度は命に関わる病気を優先するため、QOL向上を目的とする治療の保険適用拡大は難しいのが現状です。
一方で、傷跡治療の技術(特にレーザーなど)は日々進歩しており、保険診療と世界標準の治療とのレベルの差は開いていく傾向にあります。
創傷治癒過程(傷の治り方)
傷が治って傷跡になるまでには4つの段階があります。
- 出血・凝固期: 出血し、血が固まることで傷を治す過程が始まります。
- 炎症期: バイ菌などを排除し、傷を綺麗にする段階です。
- 増殖期: 線維芽細胞がコラーゲンを作り、傷を塞ぎます。ケロイドはこの段階でコラーゲンが過剰に作られた状態です。
- 成熟期: 新しくできたコラーゲンの質が変わり、時間をかけて硬かった傷跡が柔らかく、白い傷跡に落ち着いていく段階です。半年~1年以上かかります。
瘢痕(はんこん)の種類と特徴
傷跡にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
- 未成熟瘢痕: 傷が治ってから半年~1年くらいの、まだ赤くて硬い状態の傷跡です。
- 成熟瘢痕: 1年以上経過し、白く落ち着いた傷跡です。線状、面状、陥没(へこみ)したものなどがあります。
- 色素異常を伴った成熟瘢痕: メラニンが沈着して茶色くなったり、逆に色が抜けたりした傷跡です。
- ケロイド・肥厚性瘢痕: 赤く盛り上がってなかなか平らにならない傷跡です。線維芽細胞が過剰に活動し、コラーゲンを作り続けている状態です。
- 瘢痕拘縮: 皮膚が硬く引きつれて、関節が動かしづらくなるなど、体の動きに影響を及ぼす傷跡です。
傷跡治療の主な方法
傷跡治療には大きく7つの方法があります。
- 内服薬: トラニラスト(リザベン)、柴苓湯、ビタミンB/C/E、トラネキサム酸、グルタチオン、亜鉛・銅、タンパク質など。
- 外用薬: ステロイド、シリコンジェル、保湿剤、ビタミンA/E、オニオンエキス、CICAクリームなど。
- 圧迫・固定: シリコンジェルシート、圧迫療法、テープ固定、マッサージなど。
- 注射薬: ステロイド注射(ケナコルト)、ボトックス注射、ヒアルロン酸注射など。
- レーザーなどの機械治療: 色素レーザー、マイクロニードリング(ダーマペン)、フラクショナルレーザー、RF治療(ポテンツァ)、ドラッグデリバリーなど。凹凸や赤み・黒みを改善します。
- 手術: 傷跡を小さくしたり、平らにしたり、目立たなくすることで悩みを解決します。単純切除、ジグザグ形成、植皮術、脂肪や軟骨移植などがあります。
- 放射線: 主にケロイド・肥厚性瘢痕の再発予防を目的とし、手術後に行います。
最後に
傷跡治療は複雑ですが、必ずご自身に合った治療法があります。本記事(動画)を何度も見返して、少しでも前向きな気持ちになっていただければ幸いです。
クリニックのLINEにご登録いただくと、無料カウンセリングも可能です。傷跡のお悩みは、ぜひ当院にご相談ください。